心理カウンセラーの井上です。上の箱庭グッズが並べられている写真は、私が箱庭療法を習い始めの頃、当時勤めていた老人ホームの利用者さん(80代前半の男性)に作ってもらったものです。
箱庭療法で使用する箱は高価なので、当時持っていませんでした。主に100均で買ったグッズのみ使用し、本来の箱の代わりに台を使って作成してもらいました。
関連:箱庭療法とは|目的と効果、やり方を事例を交えて解説
この箱庭の作品を作ってもらった利用者さんは、車いすで生活されてましたが認知症は無く普通に会話出来る方だったんですね。ただ、当時の私がこの箱庭を見て真っ先に思った事は、「数が多すぎる・・・どれから聞けばいいんだ・・」でした。
というのも、箱庭療法の進め方のベースとして、全体のイメージを聞いたあとは、選ばれたグッズに対して1個づつ丁寧に聞いていくやり方を習っていたんですね。
例えば写真の箱庭作品であれば、右上のイルカに対して、
- この子はどんな子(性格)なのか?
- 今何をしているのか?
- どんな事を考えているのか?
などです。
上の質問からさらに深めていくことも多かったのですが、この箱庭の場合だと、1つ1つそれをしていくには数が多すぎる・・・と感じました。
この時は、結局作成した方が話される事をただ受け身で聞いて、なんとなくで終わってしまいました。お金をもらっていないトレーニングだったとはいえ、不甲斐なさが残ったのを覚えています。
この箱庭を行ってから約8年が経過しているのですが、改めて振り返ってみて「ここが深めるポイントだよ!!」と当時の自分に伝えたいポイント、(箱庭療法の作品を、解釈・分析する方法)を紹介します。
全体の雰囲気を見る・感じる
1つ1つの箱庭グッズを質問して明確にする方法でも様々な事がわかりますが、それより大切なのは、全体のイメージです。作品によっては寂しさや悲しさが現れているケースも多いです。
例えば、↓の箱庭療法の作品。
箱庭療法とは|目的と効果、やり方を事例を交えて解説の記事でも紹介していますが、当時の私が失恋後に作ったものです。失恋後の悲しみをどうこうしようとして作った訳ではありませんが、途切れ途切れの砂や、枯れ葉から寂しさが感じられます。
全体の雰囲気を見るということを踏まえて、あらためて施設の老人の方が作った箱庭の作品を見てみると、わかる事があります。
何かというと、右半分のグッズは左向き、左半分のグッズは右向きの物が多く、右対左で向い合っています。
向い合っているのは、心の中の何かが対立しているイメージなのかもしれませんし、葛藤しているイメージなのかもしれません。ここを踏まえた上で「左半分のグッズは右向きで、右半分のグッズは左向きのものが多いですが、どんな感じのイメージですか?」と聞いていれば、より深い内容を話して頂けていたのではと思います。
全体を見て違和感のあるもの、特徴のあるものを深める
当時の私は全く気が付かなかったのですが、改めて見るとこの箱庭にもいくつかポイントが感じられます。
例えば、右下の服を着たクマの人形。一見して男の子と女の子の人形なのですが、ここにもポイントがあります。
そう、男の子のほうのクマは普通に座っていますが、女の子のクマはひっくり返っています。なぜ女の子クマはひっくり返っているのか?それに対して隣の男の子クマは気付いているのか?どう思っているのか?など、突っ込みどころ満載なのですが、当時の私はそれに全く気付かず、スルーしていました。
他にも、この作品の中に、1つだけ他と種類が違うものがあります。
1つだけ種類が違うもの
何かというと、中央の消防のはしご車です。
動物系は複数ですし、銃と戦車は、関連性があります。ただ、はしご車は「助けるモノ、緊急時に出動するモノ」で他に同じような種類は、この作品の中にありません。しかもこのハシゴ車のハシゴは可動式で伸び縮みするものなのですが、目一杯ハシゴが伸びています。
これについても当時は全く気付かなかったのですが、ひょっとしたら「心の中の誰かに助けて欲しい部分」または、「誰かを助けようとしているイメージ」が現れていたのかもしれません。
ハシゴ車は何をしているのか、なぜハシゴが目一杯伸びているのか、なぜ出動したのかといった事を聞けば、「その方自身」がより深く理解できたのではと感じます。
分析のポイントとして、全体を見て
- 違和感のあるもの
- 種類が他と違うもの
- 特徴のあるもの
を深めると、その箱庭の世界(その方自身)が浮き上がってきます。
空間による分析の観点
上記grunwald(グリュンワルド)の空間図式による解釈は、他のアートセラピーと同様です。
参考文献:杉浦京子/編 金丸隆太/編、はじめての描画療法、新曜社、2018、55p
その他分析の観点
箱庭の分析のベースはユング心理学ですが、元型(誰の心の中にでもある共通のイメージ)以外でキーになるものを紹介します。
砂箱の水色について
砂箱の内側の水色は、そのまま
を現します。そのため水の面積が多いと、それだけ無意識の領域を見ようとしている(自分自身の内面を探究している)状態と分析できます。
↓の箱庭は、水の面積が広めです。
砂で分断されている場合
箱庭が砂で分断されていた場合、そのまま何かが分断されているイメージを現します。
- 現実の人間関係の分離
- 自分の内面で感じていることと、他人に向けて現していることの違いのイメージ
- 今いる世界から新しいジャンルへ行きたい・挑戦したい気持ち
等の解釈ができます。あくまですべて仮説ですので、どんなイメージかは実際に聞く必要があります。
分断の幅について
箱庭での分離の幅が狭い場合もあれば、広い場合もありますが、上記の内面で感じている分離のイメージと一致します。(水色の部分が広ければ広いほど、分離具合も大きい)
分断されている場所にある橋
2つの分離された世界をつなぐモノ、架け橋となるモノですので、あるかないかは非常に大きいです。
橋があれば上記の分断の具合がさらに緩みます。
カエル、ペンギン、亀等
上記はいずれも陸と水を両方行き来できる生物で、箱庭でも
- 2つの世界を行き来できる生物
- 2つの世界を繋ぐ役割をしている存在
として、橋のイメージに近い解釈ができます。
自分自身が人間関係における仲介役になっているイメージを現す場合もあれば、自分の意識と無意識をつなぐ存在として表現される場合もあります。
小島や池がある場合
いずれも他と分断されている場所ですので、キーになることが多いです。
- あえて他と分離して全体の調和をとっている
- プライベートな空間を守りたい、大切にしたい
- 孤独感が表現されている
- 何かから守られていたい
などの解釈ができますが、どんなイメージか実際に聞いてみるのが1番確実です。
分断の幅が狭い箱庭で紹介した↓の作品
ではサメや凶暴そうな魚が池のイメージの場所に分離されています。
この場合は、自分自身の中のサメのような攻撃的な部分が隔離されていると捉えられますが、それで調和が取れているのか、いないのかはクライアント(制作者)に聞けばOKです。
凶器系(ナイフ、刀、銃など)
基本的に自分自身の攻撃的な部分、または攻撃的な他者のイメージを現します。
お子さんが選ばれると心配する親御さんがおられますが、むしろ
と解釈できます。自覚できていればその思いをコントロールでき、感情のコントロールが効かなくなってブチ切れるようなこともありません。
箱庭の世界でそれをさらに表現・発散できれば、現実世界で攻撃的な部分がコントロールできなくなるような事はありません。
柵や枠などの他と隔離するもの
箱庭自体が1つの枠なのですが、その箱庭の中にさらに柵をならべるケースもあります。
これは絵画療法でいう強い縁取りが強い場合と同じ解釈ができ、何かから自分を守ろうとしている、または自己表現を今はあまりしたくない(得意ではない)と読み取れます。
まとめ
箱庭療法を分析・解釈する方法として
- 全体の雰囲気を見る・感じる
- 全体を見て、違和感のあるもの・特徴のあるものを深める
を紹介しました。
上記の内容はあくまで仮説ですので、それを踏まえた上でしっかりと聴いて深めることがより深い他者理解に繋がります。
箱庭療法の理解を深めるためには、私の先輩が「箱庭は数だよ」と言っていましたが、私自身も全くその通りだと感じます。