この漫画、とても面白いです。
手塚漫画は好きでかなり読んでいるのですが、描いている量が膨大なので短編集は当たり外れがあります。「火の山」はGood!です。5つの短編から構成されてます。
ドロドロとした部分にスポットが当たっているけど読後感が良い
この漫画のほとんどのストーリーでは、人のかなりドロドロとしたエグい部分にスポットが当たってます。
例えば殺したいくらい憎い思いだったり、残虐な部分。「生死」に関することや「性」に関すること。カウンセリングでもよく出てくる部分です。こういったいわゆる心の外に出しにくい部分が描かれているのですが、不思議と読みやすいです。それどころか、結論が全く読めずハラハラしながら読み進められます。
ドロドロとした部分にスポットが当たっているのにも関わらず、どのストーリーも読後感は心地良いんですよ。手塚漫画の魅力です。
ちなみに、かの藤子不二雄氏も「ブラックユーモア短篇集」なる、人のドロドロとした部分が出ている漫画を描かれてます。「笑うセールスマン」もそうです。
こういった漫画が出版されているのは、表現されている「心のドロドロとした部分」が多くの人の心に響いているからこそだと思います。
憎しみや、恨み、人を見下すなどの思いは、生きていれば人として湧いてくる自然な思いです。ただ、同時に「そんな風に自分が思っている訳がない」と抑え込みやすい、自分で認めにくい思いでもあるんですね。ユング心理学では自分でも認められない自分の思いをシャドウと呼んでいます。
シャドウが強いと何か自分の中に違和感があるだけでなく、人の話しが自分の中に入ってこなかったり、その思いがコントロール出来ず、無意識のうちに態度や言動で現れることもあります。
この漫画はシャドウになりやすい人の思いを扱っている部分も、読後感が良い1つの理由です。
メインの「火の山」も臨場感タップリ
この漫画のタイトルにもなっている「火の山」のパートは、昭和新山の史実に添って描かれています。
昭和新山は北海道にあるのですが、調度終戦時に活動が活発だったこともあり、あまり表沙汰にされなかったようです。
火山活動時には、湖に巨大な渦巻きができたり、集落で長さ50mの亀裂が入ったり、地面が50mも隆起したりといった事実を臨場感タップリで描かれています。全く知りませんでした。
昭和新山は現在でも雨が降ると山の地面から水蒸気が上がります。
北海道には何度も行っているのですが、この漫画を読んで昭和新山をじっくりと見てみたい気持ちにもなりました。
漫画の前半ではマグマのようになりやすい人の思いを扱い、後半の昭和新山の史実を元に描かれているストーリーで、読むだけでその思いが浄化されるような気持ちになります。オススメの漫画です。