箱庭療法とは、数種類のミニチュア(人形・動物・車・建造物・木・山等々)と砂箱を使い、自由に1つの世界を作りあげ、そこから心の深い部分を知るための心理療法です。
遊びの感覚を使った遊戯療法の1つで、砂に触れたり気になるグッズ・人形を選んでそれらを自由に並べるうちに意識の退行が進み、心の無意識の部分が浮き上がりやすくなります。
この記事では箱庭療法の目的と効果、やり方、デメリットなどを解説します。
箱庭療法の起源と特徴
箱庭療法の起源は、1929年にイギリスの小児科医、ローエンフェルト(Lowenfeld, M. )が子供向けの心理療法として発案したものです。
その後カルフがユングの分析心理学の考え方を導入し、大人にも効果のある心理療法として発展させ、日本へは故 河合隼雄氏が1965年に導入してます。
引用元:千葉 友里香/著、箱庭療法と心の変容、創元社、2018、17p
子供向けの心理療法として作られたのには理由があり、子供は大人に比べて感情を言葉で表現することに慣れていません。
感情や心で感じている事を言葉にできなくても、その人が選んだモノやその置き方、並べ方、素材や大きさを見ていくと、その人の心の何かがそこに現されています。それを感じていく、読み取っていくのが箱庭療法の特徴です。
例えば同じ1つの人形を選んでも、
- それを砂の上に立った状態で置いたのか
- 他の人形と向き合わせて置いたのか(何かと対峙、敵対している)
- 砂の上に横に寝かせて置いたのか(休めない、休む罪悪感が強い)
- 砂に半分または完全に埋めた状態にしたのか(何かから隠れたい、休みたい)
- 砂に頭から逆さまにして置いたのか(逆さまにした対象に強い恨みがある)
など、様々な置き方があります。(上記カッコ内は仮説です。)当然ながらその置き方にはその人の心が現れています。
心の状態を言葉にするのが得意ではない方に特に向いていますが、年齢制限はなく大人にも大きな効果があります。
箱庭療法の特徴2つ
1 話すのが得意でなくてもOK
何かがおかしい感じがする、何かわからないけどモヤモヤする等、心の状態は言葉では表現しにくい場合もあります。
言葉では表現できなくても、その人が気になるモノや箱庭で作られた世界を見ていくと、その人の心の深い部分が浮き上がってきます。
これは箱庭療法の大きな特徴として、投影の効果を最大限を使った心理療法のためです。
その人が何気なく選んだり置いたモノには、その人の何か(心理面・身体面)が現れています。
投影は様々なところに現れ、人形の素材(布、金属、プラスチック、木など)や種類、表情、並べ方・置き方として現れます。
2 作成のハードルが低い
気になる人形を選んで自由に置くだけですので、箱庭を体験する側は、他の心理療法と比較して作成のハードルが非常に低いです。
絵を描く絵画療法は、どうしても絵の上手い下手が気になったり、絵では思うように心を表現しにくい場合もあります。
雑誌の切り抜きを使うコラージュ療法は、実は箱庭療法よりもさらに作成のハードルが低いですが、作成までにどうしても時間が50分程度かかります。
箱庭療法はモノを選んでそれを自由に置くだけですので気軽に取り組めます。加えて作成時間も5~15分程度で作られる方が多いです。
※作成時間は決まりはなく、人によっては30分前後かけられる方もいます。
使用する人形、グッズについて
箱庭療法で使う人形、グッズは決められたものはありませんが、基本的にユング心理学の元型で表現されているものが多く使われています。元型とは誰の心の中にでもある共通したイメージで、代表的なものは
- グレートマザー:守る、生み出すモノのイメージ
- オールドワイズマン:強そうなモノ、指針となりそうなモノのイメージ
- シャドウ:怖い動物、醜い動物のイメージ
などです。上記のグッズであれば蛇やワニがシャドウになりますが、シャドウはその人自身がまだ受け入れられていない、認められていないモノの意味合いです。
例えば誰かに対して怒りや恨みを感じているけれど、怒ってはいけないと無意識に思っていると、それが蛇やワニといった怖い動物のイメージとして現れます。(あくまで仮説の1つとして分析に使います)
種類や素材は様々なバリエーションのものがあるとベターで、作られた箱庭に
- ふわふわしたやわらかい素材が全体的に多いのか
(優しくなければならない、頼みを断れずに仕事を抱えやすい可能性有り) - 陶器、金属系が全体的に多いのか
(現実でも何らかの人間関係等の冷たさを感じている可能性有り) - 人系のものが全くない
(人間関係に疲れている可能性有り)
など、分析につながります。
グッズをセットでまとめて購入すると30~50万円近くかかるため、私設のカウンセリングルームでは、そのカウンセラーがおもちゃ屋などを巡って集めている場合も多いです。(私もその1人です)
百均ショップのおもちゃでも可能で、私もお金がない研修生時代は百均のグッズを多く使っていました。
砂箱について
グッズは自由ですが、砂箱の大きさは実は国際規格として決まった規格があります。
縦57cm×横72cm×高さ7㎝
引用元:河合 隼雄 /編、箱庭療法入門、誠信書房、1969、3p
これは様々な病院などで作成された箱庭の写真を取り、その比較・研究のためには規格が統一されていた方が良いためです。
規定では砂箱の内側の色は水色です。もちろん意味があり、この水色はユング心理学的には
- 水=無意識部分のイメージ
- 砂=意識の部分のイメージ
とされています。
砂の高さは厳密には決められていませんが、底から2~3cmの高さはあった方が良いです。(少なくとも底の水色が見えない状態にする)
逆に砂が砂箱の縁の高さいっぱいだと、自由な創作が妨げられます。
砂箱はメルコムというブランドがメジャーで私もそれを使用していますが、少々値段が張ります。
ホームセンターで板とペンキを購入して自作してもOKです。特に砂は箱庭ショップで購入すると高額ですが、ホームセンターで購入すれば1,000円以内で収まります。
また、国際規格のサイズでないとダメなわけではなく、持ち運びやすい小さいサイズの箱もあります。
ちなみに私は国際規格サイズを持ち運んでいます。
詳細:設置は5分!箱庭療法のグッズをすべて持ち運ぶとこうなります
箱庭療法が特に日本人に向いている理由
箱庭療法は特に日本で人気が高いですが、その理由として
- 日本人はモノを通した表現に慣れている(枯山水、山水画など)
- 日本人は海外と較べて察する文化で、自己表現があまり得意でない
点が大きいと感じています。
様々な人種が入り乱れるアメリカでは自己表現をしっかりしないと生きにくいですが、日本人は外人に較べて自分はこう思う、こう感じる、こうしたいという自己表現があまり得意ではありません。
ただし、四季が明確で自然やモノを通して表現することには海外の人よりも慣れており、箱庭療法との親和性が高いといえます。
箱庭療法のやり方
やり方はかんたんで、砂箱と数種類のミニチュアを用意し、
とお伝えするだけです。基本的には
- 気になるグッズをセレクトする
- それを箱庭の近くに持ってきて、砂と交えて箱庭を作成する
順番で作りますが、作っている途中にグッズを追加するケースも多く、自由に作成してもらえばOKです。作成者が選ぶグッズの数は自由で、1つでも20個でもOKです。
関連:箱庭療法で何も置かなかった時の分析方法3つ
用意するミニチュアの数は、少なくとも20個以上あるのが望ましいです。
外箱無しでミニチュアのみを用意し、セレクトしてもらったミニチュアをテーブルの上に並べてもらうやり方でも可能です。私自身研修生時代に箱が買えなかったときは、テーブルの上でトレーニングしてます。
作成時間も特に決まっておらず、基本的に作成時に伝えません。もし聞かれた場合、
と伝えるのが良いです。
箱庭制作中は、無音よりはオルゴール調のゆったりとした曲をかけると、よりリラックスして作成しやすいです。
箱庭作成中の心理カウンセラーの関わり方
相談者が箱庭を作成している時の心理カウンセラーは、
- 何となく気にしている
- 見守っている
スタンスでその場にいます。
ガッツリ制作過程を見られると作りにくいですし、完全放置でも寂しい感じで作りにくいです。
何となく気にしてもらっているというのは、相談者からアイコンタクトを送られるとすぐにそれを察知できるようなスタンスです。
この関わり方だとその場に一緒にいる安心感から、箱庭の作成が進みます。
箱庭作成後
箱庭を作成した後の関わり方は、実はカウンセラーによって様々です。
- 特に何も会話しない
- 箱庭の世界のイメージを自由に会話してもらう
- 分析の観点を伝える
- 箱庭の世界や選んだグッズの特徴などを詳しく聞き、必要であればグッズを動かしたり加えたりする
などに分かれます。私自身は4で行っており、
- グッズの中でどれが特に気になるのか?
- それのどんなところが気になるのか?
- 各グッズの関係性
など、ケースによって箱庭を深めています。
↓の本も事例が多く、箱庭を習得したい方は参考になります。
何がわかる?目的と効果
箱庭療法の目的をシンプルにお伝えすると、モノを通して心の深い部分を知るための心理療法です。
さらに箱庭を通して心理カウンセラーと会話することで
- 言葉では表現しにくい事を表現した結果、気持ちがクリアになる
- 抑え込んでいた感情があればそれを浄化させられる
- 今の自分が求めているもの、必要なものを見つけるきっかけにできる
- 実生活でやってみたい事があれば、箱庭の世界でそれをやってみてどう感じるかシュミレーションが出来る
などの効果があります。事例を交えてお伝えします。
箱庭の事例
これから紹介する私の箱庭療法の作品ですが、失恋後の悲しみをどうこうしようと思って箱庭療法を受けたわけではありません。
大阪で約10年ほどカウンセラーとして活動しており、その大阪を出る直前にせっかくだからと色んなところでカウンセリングを受けてみました。
その結果出てきたのが、失恋後に感じていたことだったのです。
何も考えずに作った箱庭
箱の中にある「枯れ葉」ですが、これは箱庭グッズとして並べられていたものではありません。観葉植物として置いてあった鉢の下に、枯れ葉が沢山重ねて置かれていたんですね。その枯れ葉がとても気になったので、許可を頂いて置いたものです。
作成後
ひと通り作り終え、カウンセラーの方もすぐに何かを私に質問するのではなく、箱庭の作品から何かを一緒に感じてくれているような雰囲気でした。
私は並べた枯れ葉の1枚を手にとって、しみじみとそれを触っていました。
すると自分でも無意識のうちに「クシャ」っと枯れ葉を真っ二つに。
「この葉っぱ粉々に砕いていいですか?」
とカウンセラーの方に聞くとOKしてくれたので、涙を流しながら葉っぱを砕いたのをよく覚えています。
勉強のつもりで箱庭療法を受けたのですが、少し前に体験した失恋の事が自然と湧き上がってきました。
本来箱庭療法は、作った作品を動かすようなことはしないのですが、この時の私はどんどん箱庭を作り変えていってます。
次に作った作品。
砕いた枯れ葉を中央に集めて焼いているイメージ。
そのときの自分の思いを少し話した後、さらに次の作品を1年後の自分をイメージして作ってます。
自分でもまさか箱庭を作ってみて、失恋のことが出てくるとも思いもしていませんでした。しっかりと泣けた分、スッキリです。
セッション終了後
この時規定の時間を少し押してしまっていたので、自分で並べた箱庭グッズを自分で片付けたんですね。
箱の中が砂だけになったとき、カウンセラーの方と少し話しをして「本音はこれですよ」と砂箱の中央に小さな女性の人形を逆さまにして頭から埋めていました…。
で最後にお手洗いをお借りしたのですが、私がお手洗いから出ても人形が片付けてなく、砂箱の中に逆さまのままにして置いていてくれていました。当時の私の思いを受け止めてくれた感じがして、とても嬉しかったのを覚えています。
箱庭作成後、何の会話も無く効果が感じられない場合
クライアントによっては、箱庭を作っただけで自分の内面を表現できた感じがして自浄効果が出る場合もありますが、そうでない場合も多いです。
作成後にカウンセラーと何の会話もなく、特に何も感じなかった、何がなんだかよくわからなかった場合、同席カウンセラーの力不足ですので、他をあたることをお勧めします。
箱庭療法のデメリット
ここまでメリット中心に解説してきましたが、デメリットは次の通りです。
- 作品の保存がきかない
- オンラインでは出来ない
- カウンセラーが手軽に持ち運びしにくい
- 心の深い部分に触れない方が良いケースには不向き
- 言語化が得意な方には使う必要無し
作品を写真に撮ることはもちろんできますが、そのままにしておくわけにはいきません。絵画療法やコラージュ療法などは保存がききますが、保存ができないのが箱庭の大きなデメリットです。
心の深い部分に触れない方が良いケースには不向き
相談者の中には、自分の感情や心の深い部分にあえて触れないことで自分を守れている心理状態の方もいます。
感情を見る、心を開くには適切なタイミングがあり、心の体力があまり無い・今は自分の内面を見るタイミングではない状態の方に箱庭を勧めても、良い効果は得られません。統合失調症の方に箱庭含む投影を使った心理療法の効果が薄いのは、このためです。
言語化が得意な方には使う必要なし
箱庭作成後、それをすぐに実際の悩みに置き換えてお話される方もいます。その場合箱庭の作品は横においておき、その方の話に耳を傾けていきます。
が明確な方には、カウンセリングであえて箱庭を使う必要はありません。
FAQ|よくある質問まとめ
箱庭療法の危険性は?
基本的に、箱庭療法だから危険ということはありません。そもそも危険が大きければ、子供向きの心理療法として一般化していません。危険かどうか不安な方は、1度ご自身が箱庭を受けてみるのをおすすめします。
ただし無意識に自分の感情に触れないようにすることで、自分を守っている状態の方には、危険というよりは効果が非常に弱いです。統合失調症の方の中には、上記のような状態の方がおられます。
箱庭療法 どんな人がやる?
基本的に誰でもできますが、特に自分の心の深い部分を知りたい方、悩みや心の状態を言語化するのがあまり得意ではない方に向いています。
悩みが具体的、明確になっている方は、心の問題解決のためにあえて箱庭を活用する必要性は弱いです。
箱庭療法の砂の量は?
箱庭の底が見えないように、基準の高さ(7cm)の1/3から半分程度あればOKです。
箱庭療法の時間は?
人によって差がありますが、作成には5~20分程度要することが多いです。(グッズの選定含む)作成後の会話も含めると60~90分程度かかる場合もありますが、作成後の会話はカウンセラーの技量により、できるカウンセラーとできないカウンセラーに分かれます。
まとめ
箱庭療法は何気なく選んだ「モノ」を通して自分の心の深い部分を見つめていくことが出来る療法です。
「悩んでいる」という実感を持っていなくとも、無意識の中に抑え込んでいる気持ちがあると、それが浮き上がってくるのがおもしろいところです。
無意識のうちに抑え込んでいた気持ちが出せると、当然モヤモヤ感は消えて、気持ちは楽にスッキリします。
福岡近辺にお住まいの方は、当スクールの心理カウンセリング申込時に箱庭療法希望とお伝え頂ければ体験して頂けます。お気軽にどうぞ。