心理カウンセラーの井上です。2004年からプロの心理カウンセラーとして活動し、2013年に独立開業して今日に至ります。
私自身、心理系の大学を出たわけではありませんが、カウンセリングを生業としています。この記事では、そんな私が全くの素人からプロの心理カウンセラーになるまでに実際にやったことを紹介します。
ここでは「プロ」とは、相手から何らかの形で「カウンセラーとしてお金を頂く」ことと定義します。金額の大なり小なりは問いません。どんな仕事にせよ金銭が発生するかどうかは、プロと素人の大きな違いの1つです。
1 民間のカウンセラー養成スクールに通う
まずは当時目星をつけた大阪市内のカウンセリングスクールの、イベントや体験講座に参加しました。
そのスクールの講座はわかりやすく、かつおもしろいものでした。心理学やカウンセリングの本を読んでみて、とてもわかりにくいと感じていたので、わかりやすいというのは私にとって重要。
そのスクールのイベント(グループカウンセリング)でのカウンセラーの対応も「すごい聴き方と言葉かけだ!」と感じることが出来たので、そのスクールに入学を決めました。
今はそのスクールは当時と方針が変わっているため、ここでは紹介しません。
2 修了試験を終えて傾聴トレーニングに入る
カウンセリング講座を受講し終えると、修了試験です。試験はある程度勉強すれば、比較的合格しやすいものでした。
その後まずは傾聴をみっちりと。90分のトレーングに20回ほど出て、やっとスキルチェックに合格。
このトレーニングは、10分間ほどの傾聴ロールプレイを繰り返し行い、ラポール(カウンセラーとクライアントとの絶対的な信頼関係)を築けるようになるためのもの。
コミュニケーショントレーニングでもあり、人へのかかわり方、話の聴き方、気持ちの汲み取り方、質問の仕方などカウンセリングの枠を越えて、一生使えるものを身に付けることが出来たと実感しています。
特に私自身、「自分自身のマイナスの気持ちをしっかりと感じる」という事がとても苦手だったのですが、それもこのトレーニングで改善できました。その結果、以前よりも自分自身をおごそかにせず、大切にするようになった事と繋がっています。
ここまでは集中してスクールに通っていたのですが、このあたりから生活のために週5でアルバイトを開始しています。「聴くこと」に関連する仕事として電話受信でのサポートをやっていました。
3 カウンセリング現場研修に入る
ラポールがなんとか築けるようになったところで、実際の現場研修です。個人カウンセリングのアシスタントや、カウンセリング講座のアシスタントに入っていきます。イレギュラーですが、企業研修のアシスタントも数回。
当時アルバイトをしながら週に1.2回(3~6時間程度)のペースで研修を続けていました。その他、そのスクールが開催していた勉強会にも週に1.2回(3~6時間程度)の参加です。
現場研修で身に付いた事
当時カウンセリング講座のアシスタントに入ることが多かったのですが、この研修では特にプロとしてのかかわり方を身に付けることが出来ました。講座開始前後には、受講生に関わる時間があります。その時の立ち方から関わり方、会話の内容、場の作り方等は、カウンセリングと全く同じもの。正直最初は開始前に座っている受講生に声をかけるのが怖かったのですが、慣れていくうちに信頼関係も深まり、時には個人カウンセリングのアシスタントに指名して頂けることもありました。
講座終了後の受講生へのかかわりでは、プチカウンセリングになることも多くありました。その対応後講師からアドバイスをもらえたことも力になっています。
転機 腹を決める
そんな生活を4ヶ月ほど続けた時のことです。とあるプロの方から、「もう少し先のことを具体的に決めたほうがいいよ。」と言われたんですね。
なんとなくプロのカウンセラーになりたいという思いはあったのですが、具体的にどんな分野で活動したいといった希望はなかったんです。確かに先のことは具体的に決めたほうがいいなぁと思いつつ、実は中々決められませんでした。
その理由は、決めてしまうと、本当にやらないといけないからです。
というのも、実はその当時カウンセリング現場研修に少し疲れていたんですね。なぜかというと、カウンセラーになる事に限らず、目標を達成しようと思うと何でもそうだと思うのですが、「うまくやれない自分」をどうしてもしっかりと見ないといけません。
実はそれは落ち込むことでもあって本当のことをお伝えすると当時の私は、何度もそれに立ち向かうという心構えをキッチリと持ち切れていなかったんです。
それ故に次の研修に一歩踏み出すことが出来なくなってしまいました。
プロになってからもカウンセラーを辞めようかと考えたことは山ほどありますが、この時ほど強く本当にカウンセラーを目指すのを辞めようかどうか迷ったときはありません。
というのも、当時カウンセラーになるために勤めていた職場を辞めていたんですね。それもあり、自分自身がやると決めたことをくつがえすのは嫌だという思いもあり、カウンセラーになることをなかなか諦め切れませんでした。
でも続けるのもハッキリ言って苦しい。やるのか、止めるのか、ハッキリ決めることが出来ず、スクールには全く行かず悶々とアルバイトを続けていました。その当時、バイト帰りの夕焼けのグラデーションの美しさがやけに心に焼き付いたのをよく覚えています。
決めきれないまま、スクールには全く行かないまま、2ヶ月ほどたった頃です。あるカウンセリングに関する夢を見たことがきっかけで、カウンセリングの勉強会に復帰しました。講座アシスタントなどの現場研修は受講生からはプロとみなされるので、いきなりその場に戻る勇気はなく、まずは勉強会から慣らしでの復帰です。それでもスクールの前に立っただけで吐き気を催してました。
4 真剣にプロになるための行動をする
復帰直後の勉強会では、必然的に今までと取り組み方が違ってきました。トレー二ングが終わった後も講師の方を捕まえて、次のステップのカウンセリングスキルをどうやって身に付けたのかを聴いたり、トレーニング自体にもその時の自分の気持ちを真剣に見つめながら積極的に参加していました。トレーニングですが、毎回涙を流しながら。※この時の涙は、悔し涙ではなく、自分の気持ちに触れたからこその涙でした。
4-1 講座の前説を開始
という話を数人の先輩プロカウンセラーから聴いていたため、講師を目指すことに。
そのスクールの1講座は約2時間でしたが、いきなりそんなに話せるわけもありません。先輩の勧めもあって、まずは前説の5分からスタートし、話せる時間を15分、30分、60分と段階的に伸ばしていくように決定です。5分ならなんとか話せそう。
そう思って話す内容を用紙にまとめ、話してみるのですがうまくいきません。うまくいかないというのは、内容が要するにつまらないんですね。
- 前説の内容をまとめる
- その内容を話し込む(5分の内容を20~30回程度)
- 講座前に担当講師にチェックしてもらう
(そのスクールでは約30のカリキュラムがあり、3時間程度で出来るものもあれば、本などを読み1週間かけてもなかなか仕上がらないものもありました)
という流れでやっていました。先輩にアドバイスをもらいながらやるうちに少しづつ、心に打つ言葉というのはこういものなのかという事を体得出来たと思います。
4-2 前説のトレーニング
それまで人前で話した事などなかったので、始めは緊張感も強かったです。2の「その内容を話し込む」というところは、自分の部屋でやっていたのですが、それだとどうしても本番でも声が後ろまで届かなかったんですね。本番は最大で40人程度入る教室でやっていたので広さが自分の部屋とは違います。ですので、声をしっかりと後ろまで届けることが出来るようになるために、夜中に近所の河原で20mほど先を見ながら話し込みをしていたこともあります。
毎回それが出来ていたわけではないのですが、前説をやる時には少し早めに現場に入って、必ず講座を行う教室でリハーサルとして1回は話し込みをしていました。これをやるとやらないのとでは、自信の持ち方と緊張感が全然変わってきます。
実際の講座で前説をやらせてもらう時には、その様子を出来るだけ録画して後で見直すようにしていました。
そんな前説を週に1回ペースで開始です。
4-3 講師トレーニングを受ける
そんな時にちょうど通っていたスクールで、月に1回90分ほどの講師トレーニングが行われることに。
参加者は20名程度。初回トレーニングの終盤では講師から、「どの講座でもいいから、話したい人は前で5分だけ話してみて」と。私は話す内容はあったのですが、怖くて話せずじまい。
人によって話す力はまちまちで、長くは話せるがまとまりがつかない人、親しみやすさがある人ない人、声がどうしても相手に届かない人、緊張しやすい人(私)など様々でした。
自分が話した後の講師からのアドバイスがためになったのはもちろんですが、他の人が話した後のその人への講師からのアドバイスもためになりました。特にあるトレーニング生が話した時、講座の内容の前に今日あった愚痴のようなことを言ったんですね。その後講師からは、「聴いていて不快になるような、意図のない内容は話すな。」と。提供する側というプロとして当たり前の姿勢を、ブラッシュアップ出来たと感じています。
そんなトレーニングを受けながら、講座の前説を開始してから7ヶ月くらい経過した時のことです。
5 実際に講座を担当する
ある講座で、私ともう1人前説希望者がいました。当然担当出来るのはどちらか1人だけ。講座前の講師だけがいる教室で、研修生私達2人がそれぞれ前説のチェックをしてもらいます。
その後講師は少し考え、前説に選んだのは・・・私ではないもう1人の研修生。
そして私に向かって、「井上君は、今日の講座のこの部分を今の前説を少し変えて実際に担当してみて。」と。
10分程度でしたが、それまで20回以上前説をやっているので抵抗感はありません。受講生にもステップアップした自分を見てもらえたようで「自分もやれば出来るかもしれない。」と感じてもらえた気がします。この時点ではプロと見られていますが、まだ私に対する金銭は発生していないのでプロとはみなしません。
6 お金を受け取る
実は初めてカウンセラーとしてお金を受け取ったのは、話を聴いてではなく、話をしてでした。
というのも講師トレーニングで、「次回までに15分間のカウンセリング講座の内容を、カウンセリングを知らない人に3回は話してきて。出来ればお金もいくらでもよいからもらって。」という課題を出されていたんですね。
私はアルバイト先の先輩を捕まえて話しを聴いてもらったりしていましたが、親に対して話しをした際500円だけ頂きました。自分の親からなので甘いとは思いますが、これが初めてカウンセリングに関わることでお金をもらった時です。
そうこうしながら講師トレーニングと前説を続けるうちに話せる内容も増えてきて、前説を開始してから1年ほどたった頃、2時間程度は話せるようになっていました。
7 専門学校のカウンセラーにエントリーする
そんな時に、通っていたスクールから専門学校で学生さんの心のケアの仕事(週4程度)の募集が。エントリーし、合格。
そちらでのコミュニケーションの講座も仕事の1つだったので、「話せる」「聴ける」という両方のスキルを身に付けていたのが功を奏しました。
こちらで求められていたのは、「臨床心理士のような、うつや自律神経失調症などに対応出来るカウンセリングが出来る人」というよりは、「学生に親しまれて気軽に相談でき、うつなどの予防になる、講座も出来る人」だったので私とマッチしていました。高くも安くもない時給で給料を頂けることに。
この時点でプロの心理カウンセラーと言ってもよいと思います。スクールでカウンセリングを学び始めてから2年と少しが経過、研修に入ってからは1年半が経過していました。
その後とまとめ
話せる講座の数を増やしながら、個人カウンセリングの力もまだまだなのはわかっていたので、トレーニングを受けて磨いていっています。
実はこの仕事はプロになるまでよりも、なってから続けることのほうが難しいです。同時期に講師トレーニングを受けた人の中にも、1回だけ講座を担当して(プロになって)辞めた人が何人かいました。
それが良い悪いは別にして、カウンセラーを目指す上で「プロになること」を目標とするとそうなると思います。私の場合は、カウンセラーのような人になりたいという思いがあったのでプロを目指しました。
その人の側にいるだけで落ち着いた気持ちになれる、相手が本当に感じている気持ちを汲み取れる、相手を尊重する会話で本当に望んでいることを共に探せる人になりたいという思いからスタートしています。
カウンセリングはクライアントの方の人生に触れ、根本から貢献することが出来るとてもやりがいのある仕事です。